この小説はイノセンスのネタバレを大いに含みます!
また、アルベール→アンジュ←スパーダ仕様ですので、
アルベール×アンジュ好きさんはお読みにならないほうがいいと思います。
また、スパーダ×アンジュ好きさんも若干読むのがお辛いと思います。
この小説は悲恋です、ご注意下さい。
それでも大丈夫と、胸を張って言える方だけ、どうぞ↓
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『白のアイス』
雪が降っていた。それはいつものように町を白に染め上げるように深く深く。
「アンジュ、君は私のことを本当はどう思っているんだい?」
教会に通って、信者さんに教えを説いて、その後はアルベールさんとゆっくり暖かい美味しいものを食べて、それが私の日課になりつつあった。この環境は私にとって幸せなもの以外の何ものでもない。ここテノスの国の人は優しくてナーオスから来た私をすぐに受け入れてくれた。そして、私もいつの間にかこのテノスの国を愛していた、アルベールさんと同じように。さっきまでいつものように私達はお茶を飲んでゆっくりしていたのに、唐突にアルベールさんが私に話があると肌寒い外へ私を連れ出した。
全てが白かった。あまり人が来ないのだろう、雪にくっきりと残る足跡は私と彼のものだけで、人が誰もいないのを彼が確認すると、ゆっくりと私に冒頭の言葉を問いかけてきた。
「どうしたんですか急に?私にとってアルベールさんはすごく大切ですよ。今こうやってテノスでの暮らしが楽しいのも、教会を活気付けてくれたのも、全てアルベールさんのおかげですから。」
いつもよりも少し明るく、それでいて笑顔は絶やさずに言うことができた。これは全て私が本当に思っていること、それを力一杯彼に伝える。けれど、私を見る彼の表情が苦笑いに変わった。そして、その意味を私も知っている。
「分かっているんだろ、アンジュ?私が聞いている意味がそういうことでないくらい。」
私は何も言うことができなくなってしまった。もうテノスに来て一年経ったのだろうか?旅の直後、アルベールさんは私の考えに共感してくれてテノスに迎えてくれて、それからずっと私を支えてくれた。もちろん経済面には思いっきり頼ってしまったこともあったけど、それ以上にお互い信頼しあって助け合ってきた。初めての会った時とは違う、今は唯一無二の親友と呼べるほどの存在。
「アンジュ。君と正式に交際を申し込みたいんだ、結婚を前提として。」
ヒンメルのあどけない笑顔を思い出させるような顔で言われた告白の言葉。以前はリカルドさんにルックスを聞いただけでうっとりと夢見てしまったこともあったけど、今は違う。
私は知っている。こんなに絆が深くても、別つことが来てしまうことを。もう以前と同じような関係に後戻りのしようのない言葉を放たれて、先延ばしも、誤魔化しも効かない状況であることが分かった私は意を決した。
「ねぇ、アルベールさん。私も聞きたいことがあるんです。聞いてくださいますか?」
真剣に言った声にアルベールさんは了承して、私の質問を待つ。
「アルベールさんは私のことどう思っているんですか?」
逆に聞かれたことに目を瞬いたのはアルベールさんだった。私にこう聞かれるとは思っていなかったみたい。
「ううん、私のこと、私の中のオリフィエルを今でも感じますか?」
言葉数が足りなかったのに気付いて付け足す。お互い聞いているようでずっと聞けなかったこと。私の言葉にアルベールさんは少し苦い顔をして、そして破顔した。
「それは難しい質問だね、アンジュ。君の中にオリフィエルを思い出さないって言うのは嘘になる。そもそも出会いが前世の縁だったからね、この縁がなければ君とこういう風に接することもなかったと思う。」
私に向けられるその笑みがひどく優しかった。私もそうだからアルベールさんが言っていることを否定できない。ううん、ヒンメルの存在は今の私にとっても大きな存在であり続けているから。
「でも、私はアンジュを知った。オリフィエルにはないアンジュを知ったんだ。だから、近くで君をもっと知りたい。アンジュ、私とずっと共にいてほしい。」
今度こそ女の子なら誰もが願ってもみない告白に違いなかった。感じる、アルベールさんの強い想いが魂を通して。
「―…ごめんなさい。」
もう彼の顔を見ることができなかった。寒さのせいだけではない震える指を強く握って、俯くことが精一杯だった。
「アンジュ、理由を聞いてもいいかな?」
いくらか落胆した声が返ってきた。きっとアルベールさんになりに私に気を使って、これでも自分の思いを制御しているんだと思う。そう優しい人、ヒンメルとは違った優しさをくれる人。
「私達の関係、アルベールさんは不思議に思ったことはありませんか?」
だから、私も少し強がるの。彼だって痛いのを我慢しているんだから私だけとは言えない。顔を上げれば、やっぱり真摯に見返してくるアルベールさんがいた。
「アスラと、いえ、前世でアスラだったルカ君と話しても、私達がアスラとオリフィエルのような関係で接することは一度たりともありませんでした。」
私の話に真剣に聞いてくるアルベールさんは、どうしても純粋で素直だったヒンメルを思い浮かべてしまう。
「でも、アルベールさんとは時々なぜかヒンメルといる気分になってしまう。私も気づくとオリフィエルがヒンメルに対する態度を取ってしまうことがあるんです。」
あの旅ではまったく味わったことのない感覚、前世の縁で旅を共にした仲間だったけど、それでも私はアンジュ・セレーナとしてみんなに接していた。シアン君だってそう。前世が犬のようだからって現世ではもう怖い気持ちはなくって、思い出を共有しているような感じだった。なのに、目の前のアルベールさんだけは違った。前世であまりにも近しい存在だからだったのか、それともお互いの魂が縛られているからか分からないけれど、天術が消え、転生者に会ったとしてももう分からない今でも、ヒンメルの存在をなぜか強く感じていた。
「アンジュ、そんなことはもう関係ないじゃないか。今はアルベールとアンジュだ、その違いを教えてくれた君までがいつまでも前世に縛られているのもおかしい話だ。」
なんてことでもない、というアルベールに私は首を振る。一番言いたくなかった言葉をもう言うしかないみたい。
「けど、私はその度に思い出してしまうんです。…私の罪、大切だったヒンメルを助けられなかったオリフィエルの悲しみを……―。」
アルベールさんはそれを聞いて口を開きかけ、結局何も言えずに口を閉ざしてしまった。
「私達ずっといい友達でいられますよね?」
絞り出すように肯定の声を上げたアルベールさんの声は、すぐに真っ白な吹雪にかき消されてしまった。
ところ変わってここはナーオス。
あれからもう一ヶ月が経とうとしている。結局、気まずさに耐えられなくて、すぐに荷物をまとめて、後回しになっていたナーオスの聖堂の再建に取り掛かるとテノスを飛び出した。帰り際、資金援助を全額出してくれるというアルベールさんの申し出を丁重に断ってきた。彼とまたテノスに戻ってくると約束をして。ほとぼりも醒めて再建が少し進んだら、手紙でも出そうと思っている。
ナーオスの再建は思ったよりも捗りそうだった。テノスで貯めていたお金を使って出始めは順調だったし、ナーオスの人たちも一人二人と手伝ってくれるようになった。長い間、テノスにいたおかげか異能者の噂は下火になってきていたし、もう世間では見分けのつかない異能者の存在は恐怖の対象でもなくなったように思う。私が天術を使えないと聞いて、がっかりとする人までいる始末だった。
今日もいつものように再建の指揮をとって働く。自分で壊してしまったと言え、毎日毎日この作業は大変だった。お昼の休憩でやっと一息つける。昼ご飯を食べるために一度家まで戻ることにした。自分の家が見えてきたところで、私は自分の家の前に良く見知った人物が立っていたことに気付いた。
「スパーダ君!」
後ろから呼びかけられてはっとする。後ろを振り返って見れば、目的の人物が立っていた。留守であることが分かってハルトマンの家に一度戻って出直そうかと思ったけど、少し待っていて正解だったらしい。
「よぉ、アンジュ久しぶりだな。」
旅の後別れた時とあまり変わらないアンジュの姿に俺は少し安堵した。少し疲れているのか、アンジュは俺の前まで歩く歩調を変えずにやってくる。アンジュは変わらない綺麗な笑顔を湛えながら、それと、
「アンジュの胸も相変わらすでっけぇな〜。」
ピキッ
何かがひび割れる音がした。見ればアンジュの顔は笑顔であるにもかかわらず、目だけは笑っていなかった。つい思ったことがポロリと出てしまったが、こういう類の言葉が世間ではセクハラと言われ、イリアが相手なら当然八つ裂きぐらいにはされてしまうことを思い出した。
(やべっ)
後悔先に立たず。言ってしまったことは、どうやっても取り返せない。さすがに事の重大さに狼狽していると、アンジュは親指を突き立てて俺に言った。
「もうっ、スパーダ君!分かっていると思うけど、その年で女性にそういう言葉を言っちゃいけないことぐらい分かってるわよね?!…―」
怒っている顔も可愛いとは、口に出さずにいた俺は懸命だっただろう。10分もアンジュお得意の説教をくらい、げんなりした俺に彼女は気が済んだようだった。
「ここで立ち話もなんだし、中に入りましょうか?今、お昼休憩だから、あまりゆっくり話している時間ないんだけどね。あれ、そういえばスパーダ君はナーオスにはいつ来たの?」
「あぁ?実はナーオスには今日の朝着いたばかりなんだ。それよりアンジュ、お前お昼休憩って言ってたけど何やってるんだぁ?」
それを聞くやアンジュは笑顔になる。しかし、彼女は俺よりも何枚も上手だと言うことをこの時の俺はすっかり忘れていた。
「もちろん、聖堂の再建だよ。あ、考えてみればそっか!聖堂の再建スパーダ君にも手伝ってもらえるな。よかった、ちょうど今日は人が足りなかったんだよね。今では天術も使えないから、私も困ってたんだ。」
満足したように頷くアンジュ。そこに待ったをかけたのはもちろん俺だった。
「なんだよそれっ、聖堂の再建作業を俺にも手伝えってかぁ?」
冗談じゃない。こっちは世界中回って旅をしているのに、重労働なんてごめんだ。大体ナーオスには慰安の意味で来たのに、疲れるようなことしたらそれこそ意味がない。しかし、何度も言うが彼女は山千海千である。貴族のお坊ちゃま暮らしをついこの間まで楽しんでいた俺とは訳が違う。もちろん、この非難の声が届くはずもなく、
「スパーダ君?」
笑顔。笑顔だけれどその輝かしいほどの笑顔がなぜか怖い。
「さっきのこともちろん反省しているんだよね?」
さっき?ああ、胸がどうこうってやつか。と今更思い出して肯定の声を返してももう遅い。
「だったら、お詫びにやってくれるとすごく助かるんだけどなー。あれ?それともスパーダ君にとっては大したことじゃないのかな?私はすごく傷ついたんだけど…。」
惚れた弱みも手伝ってか、こう言われてしまえば聖堂の再建を手伝うほかない。だったらまだ、イリアの八つ裂きのほうがマシだったと思う。いや、イリアの場合その後もずっと引きずるからタチの悪さでは五分五分かも知れない。そう思ったらなぜか半泣きのルカの顔が浮かんだ。
「わぁーったよ!手伝えばいんだろ?手伝えばぁ!!」
半ばやけくそにアンジュの意見に同意すると、彼女はくすくすと笑った。旅が終わった後も変わらない光景がそこにあったように見えた。
午後から再建作業に協力したことに満足したのか、アンジュは昼食までならず夕食までご馳走してくれた。彼女曰く、スパーダ君があんなことを言わなければ始めからその気だったんだよ、と言っていたけれど。
「でも、どうしてスパーダ君がここに?ルカ君からの手紙で世界中を回っていると聞いたけど、それでナーオスにも来たの?」
食事も一段落したところで、話の切り口を切ったのはアンジュだった。けど、彼女の質問に答えるよりも先に、気になる言葉が引っかかった。
「手紙?…ルカの奴とやっているのかアンジュ?」
この質問にアンジュは頷いて、そして微笑む。
「んー、イリアともやってるんだけどね。でも、イリアは結構音信不通になっちゃうかな?彼女はそういうの少し苦手みたい。その点ルカ君はすごくマメなんだよね。つい最近まで私テノスにいたんだけど、こっちに戻ってからも再建が忙しくて様子見にいけなかったんだ。でも、ルカ君は自分のこともそうだけど、エルのこととかスパーダ君のこととかも定期的に手紙に書いて教えてくれるの。」
字も綺麗だしね、と嬉しそうに話すアンジュを見ながら、俺は内心舌打ちをした。そうか手紙があった。もちろん俺もイリア同様手紙を書くのは得意とは言えなかったが、アンジュ相手なら少しは頑張れた気がするのに。近々ルカの家に行って手紙を書くコツでも教えてもらおうと心に決める。と同時に、少し面白くない気分にもなった。
「なんだ。じゃー、俺の近況もある程度知っているってことか。あーツマンネ。」
一気にしゃべる気を無くした俺の様子に、アンジュは少し苦笑して宥めるように言った。
「スパーダ君のこと心配だったからルカ君から聞いて安心してたのは本当だけど、私はもちろんスパーダ君自身からあれからどうしていたか聞きたいんだけどな?」
どうしてこの女性はいつも嬉しいことを言ってくれるんだろう。その言葉に俺は気分をよくして話し始めた。
「あの後俺、親とちゃんと話して独立したんだ、成人の儀を受けてからな。金も地位もどうせもらえねぇから、家を出て守りたいものを守れるような仕事を世界中旅して探してる。」
「そっか、ご両親と和解できたんだね。おめでとうスパーダ君!」
それを聞いて自分のことのようにアンジュが、なんだか照れ臭くて、でもそれがすごく嬉しかった。
まずは、バルカンを奉っているガラムを旅したこと、旅の途中で偶然リカルドに会ったこと、
資金不足になったらギルドで働いて飢えを凌いできたこと、護衛の仕事が自分にはあっているようで各地でいろいろな護衛を引き受けてきたことなど、いつの間にかたくさん話していた。そんな話をアンジュは退屈もしないで一生懸命耳を傾けてくれて、時には微笑んだり、優しく励ましてくれたり、軽く咎めてきたり、そんなアンジュを見ながらこの一時が終わらなければいいとさえ思えた。
「でも俺よぉ、ずっと天術使って悪い喧嘩ばっか吹っかけてきたから、今は反省してるんだぜ。人助けみたいなすげぇことはできねぇけどよ、これからはどうせ喧嘩するんならいい喧嘩しようと思って頑張ってるんだ。」
「大丈夫よ、スパーダ君が本当に反省してるならできるはずよ?それに人助けもそんな大層なことしなくても、スパーダ君の出来る限りことをしてあげればそれが人助けになるんじゃない?」
にこにこと笑って俺を安心させてくれる笑顔に、なぜか元気付けられる。アンジュがそういうと俺にもできるような気がした。
「ああ、やってみるぜ。」
話が一区切りしたところで、アンジュは思い出したように席を立った。
「そう言えば、冷蔵庫にアイスがあったんだった!取ってくるから待っててね。」
そんなに食べたら太るんじゃないかと、ここで言わなかったのはさっきの教訓のおかげだろう。でも、この流れでは、アイスを食べてこれで解散ということになりかねない。肝心の話したいことは何一つまだ話せていないし、アンジュの近況はほとんど軽くしか聞いていない。それは向こうも深く話すことを望んではいなかったからなのだが。アイスを食べれることに嬉しそうにしているアンジュに申し訳ないと思いつつも、俺は本題を切り出した。
「…俺はてっきりアンジュはテノスにいるんだと思ってた。」
俺の様子に変化があるのに気付いて、アンジュは立ったきりその場に留まってくれた。
「そうね。一ヶ月くらい前にこっちに戻ってきたかな?聖堂壊したのは私だし、資金もある程度貯まったし、いい加減に直さなきゃいけないと思って戻ってきたの。」
やっぱりいつも通り明るく話すアンジュ。俺はそんなに頼りにならないんだろうか?
「だから俺、ここに来る前にテノスに行ったんだ。アンジュに会うために。」
何かを守れるようなものを必死で追い求めて旅をしていたけれど、ほとんどの国を回り終えた時、俺は唐突にアンジュに会いたくなった。あの優しい笑顔が見たいと思った。そして、やっと分かったんだ、守りたいものがアンジュなんだと。だから、アルベールが一緒にいるであろうテノスへ足を運んだ。どのような結果でも今の俺なら受け止めきれるとそう思ったから。
俺の言葉にアンジュは少し目を見開いた。でもすぐに残念そうに顔を歪めて、ため息をついた。たぶん俺がテノスで大体の事情を知ってしまっていることに気付いたんだろう。
「なーんだ、スパーダ君知ってたんだ。早く言ってくれればよかったのに。」
降参したように、諦めて椅子に座る。困ったように頬杖をついて、こっちを見る仕種は憂いをはらんでいても魅力的だった。
「それで?」
「へ?」
アンジュの問いたげな視線の意味が分からなかった。
「だってそうでしょ?テノスに行ってアルベールさんから話を聞いて、ナーオスにまで来たってことは、私に何か伝えたいことがあるからなんでしょう?」
どうやらアンジュにはこちらが何かを言いたいことまで、お見通しらしい。本当だったらここで、俺は想いを伝えるつもりだった。地位もお金も天術さえも今は何もないけど、それでもこの一年で磨いた剣の腕は確かだったから、それでアンジュを守るくらいの甲斐性はあると思う。けれど、
「アンジュ、どうして逃げたんだよ?」
出てきた言葉は、本当は言うはずだったものではなく余計なお節介だった。なんとなくだけど、アンジュはアルベールが好きだったんじゃないかと思った。俺の質問に答えたアルベールを見ても、今のアンジュを見てもなぜかそう思ってしまう。アルベールから深い事情を聞いたわけでもない。だけど、アンジュの考えることなら、大体分かる気がした。
「俺は深い事情を知らねぇけど、テノスでの暮らし楽しかったんじゃねぇのかよぉ?…他の貴族令嬢の奴らにでも遠慮したのか?」
アルベールの家を訪れて、軽くアンジュの事を聞いて、そのままテノスを立ち去らず教会に向かった。アンジュの評判は言わずもがなことさら良くって、彼女がここで楽しく暮らしていたのは容易に想像がついた。なんで俺はアンジュが好きなのに、アルベールのことを応援するようなことを言っているのか分からない。でもアンジュの悲しい顔だけはどうしても見たくなかった。
「そうだね。スパーダ君の言う通り、それを考えてなかったとは言えないかな。」
俺の言葉をちゃんと真っ向からアンジュは聞き入れてくれたらしい。こんなこと言ったらアンジュがアルベールのところに行ってしまうかと切なくも思ったが、同時にアンジュの性格も知っている。アンジュなりに良く考えて行動した結果だと言うことも、明白だった。
「テノスの国出身でもないのに、いきなり前世の縁とかで横入りされるのは嫌かなって思ったよ。アルベールさんは、テノスの国の有名人で人気者だしね。でもね、スパーダ君が言うようなそういう理由じゃないから、安心して?」
やっぱりアンジュは俺に話してくれているようで、全然話してくれなかった。宥めるように言うこの女性の瞳は、俺なんかを写していない。
それじゃあ、この話は終わりとでも言うように、アンジュはアイスを取りに行くために再度立ち上がった。
「なんだよ、アンジュ!そんな複雑なことじゃないだろ?!ただ単に周りのことが分かりすぎるから、あと一歩の勇気が踏み出せないだけじゃねぇのかぁ?!」
さっさと台所に向かうアンジュの後姿に、俺は力の限り叫んだ。成人の儀を果たしても、すぐにムキになるところは子供のままで嫌になる。
「スパーダ君…。」
アンジュは足を止めて俺の方を振り向く。こんなことをしたら彼女を困らせるだけだと思っていても、抑えることは叶わなかった。
「俺、守りたいのも見つけたんだ!けど、今の俺じゃ、まだまだ守りきれないって言われたも同然なんだ。だから…、」
アンジュはきっと俺の気持ちに気づいているんだろう。本気なのか、それとも軽い気持ちなのかまでは分からなくても。だからあえて、流そうと場を取り繕ってくれる。そうやって、どうやったら場が上手く収まるのか知っている。自分がどう動けば誰も傷つかずに一番いいのかを誰よりも知っているからこそ、アンジュは自分の本当の願いさえも簡単に押し殺せるんだろう。でも、俺はそんなの認めたくない。認めたくないからこそ、アンジュがくれたチャンスと受け取って出直すことにした。
「だから、今度こそちゃんと守れるようになったって周りも認めてくれるようになったら、また俺会いに行くから。」
アンジュに気持ちを伝えたかったけれど、今伝えてもきっと関係が壊れるだけにしかならない。それをアンジュは知っているし、俺も分かったから、今はとりあえず保留にしておく。けど、次会ったときはもうこんなことをさせはしないと覚悟を決める。
「それじゃあ、また来るわぁ。」
アンジュのように上手くはいかなかったけど、元気良くそう言って別れを告げる。アンジュもそれに合わせるように笑った。
「頑張ってね、スパーダ君。」
ドアを閉めると共に、すぐにその余韻は消えてしまったけど、アンジュからの言葉が何よりも俺を力づけた。鍛錬なんて柄じゃねぇけれど、それでも手に入れたいものがこの先にあるからやってみようと思えた。食べ損ねたアイスの甘みを、次ぎ来たときには必ずありつけると信じて。
あとがき:
あくまで最初のアルベール→アンジュは、スパーダの話を書くときの伏線だったりします。
これを書いたのはあくまで考察ページで伝えきれなかったアンジュの良さを補足したかったわけではなく、考察ページに載せようと思ったらいつの間にか長くなってしまってこっちのページに載せることになった典型の第2弾だったりします☆
最初の方でアルベール書いていて、途中同情しながら書いていましたよ、あんなに嫌ってたのに(汗)こんなアルベールだったら好きになれそうです。
この小説の「白のアイス」題名の意味は、『白』は白紙、空白など言葉を連想して、「何もない状態」とか「始まり」という感じです。『アイス』は甘いですよね、だから「甘い恋」だったり、アンジュは食いしん坊だからアイスを食べたら幸せに感じるだろうことから「アンジュにとっての幸せ」という意味合いを込めています。
ですから、どうぞ深読みしてみてください♪
執筆:2008年2月1日